社員の健康を守る肥満対策|健康経営で企業ができる5つの取り組み
「健康診断で肥満と言われた社員がいるけど、企業としてどう対応すべきか」
「そもそも肥満って企業で対策すべきものなの?」
肥満に対して企業として、どこまで関与すべきか迷っていませんか。
肥満は、放置すれば生活習慣病や体調不良を引き起こし、欠勤や休職などにつながる可能性があります。
だからこそ、企業として日頃から健康への取り組みを行い、社員が自分の身体と向き合える環境を整えておくことが大切です。
この記事では、企業で肥満対策が必要な理由や肥満の基礎知識、企業が実践できる具体的な対策を紹介します。
社員の健康と企業の健全な成長を両立させるために、職場でできる工夫を見直してみましょう。
目次
なぜ肥満対策が企業で必要なのか
肥満と聞くと「食べすぎてしまった」「もっと運動しないと」と自分を責めたり、落ち込んだりする方も多いかもしれません。
ただ、現代人の肥満は個人の自己管理の問題だけではなく、以下のような背景がかくれていることがあります[1]
- 残業のストレスを食べて解消
- 終業が遅く夜遅くの食事になっている
- 車移動ばかりで運動量が少ない
- 食生活の変化(付き合いでアルコールが増える、高脂質の食事など)
- 遺伝による個人差
- 甲状腺や腎疾患による体重増加 など
日本肥満学会も「現代人の肥満は自己責任だけではない」と発表しています。[1]
とくに、年末年始は飲み会やごちそう、寒さによる運動不足などが重なり、体重が増えやすい時期です。
女性比率の高い職場では、「制服がきつくなった」「健康診断が不安」など、体型や健康に関する声が年明けに多く寄せられることもあります。
年末年始だからこそ、企業としてできる肥満へのサポートを考えてみてはいかがでしょう。
肥満の基準とは
肥満とは、体重が多い状態を指すだけではなく、体脂肪が過剰に蓄積された状態です。
ここでは、肥満の判定方法や、よく混同されがちな「メタボリックシンドローム」との違いについて解説します。
肥満の判定方法
肥満度の判定には、世界的に使われている「BMI(Body Mass Index)」が用いられます。

日本肥満学会では、BMIが25以上の状態を「肥満」としています。[1]
また、BMI22がもっとも生活習慣病になりにくいとされる標準体重です。
肥満度分類は以下のようになっています。

たとえば、身長155cmで体重60kgの方の場合、BMIはおよそ24.9で「普通体重」の範囲です。ただし、境界に近いため生活習慣を見直すきっかけになるでしょう。
肥満とメタボリックシンドロームの違い
肥満とは、身体に脂肪が過剰に蓄積された状態なので、肥満自体は病気ではありません。
肥満・肥満症・メタボリックシンドロームの違いは以下のとおりです。

肥満症はBMI25以上で、以下の病気が合併すると診断され、治療が必要になります。[1][2]
- 耐糖能障害(2 型糖尿病・耐糖能異常など)
- 脂質異常症
- 高血圧
- 高尿酸血症・痛風
- 冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症
- 脳梗塞:脳血栓症・一過性脳虚血発作(TIA)
- 脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患/NAFLD)
- 月経異常,不妊
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)・肥満低換気症候群
- 運動器疾患:変形性関節症(膝,股関節)・変形性脊椎症,手指の変形性関節症
- 肥満関連腎臓病
一方で、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は、肥満の有無にかかわらず診断されることが特徴です。
メタボリックシンドロームの診断には、内臓脂肪が蓄積されていて、さらに高血糖・脂質異常・血圧高値のうち2つ以上が基準から外れている状態である必要があります。[3]
メタボリックシンドロームは、放置すれば脳血管障害や心臓病のリスクが格段に高まるため、早期の気づきと対策が大切です。
肥満による不調と仕事への影響
肥満になると生活習慣病だけでなく、以下のような健康問題のリスクも高くなります。[4]
- 痛風
- 高血圧
- 心臓病
- 脳卒中
- 呼吸器の不調
- 妊娠・不妊のリスク
- メンタルヘルスの問題
BMIの数値にかかわらず、短期間で体重が急激に増加した場合は、内科をはじめとする医療機関を受診しましょう。
肥満を放置すると、社員が本来持っている力を発揮できなくなる可能性があります。
また、肥満により集中力の低下や体調不良による欠勤・休職など、業務への支障につながることも少なくありません。
企業が健康経営に取り組むためにも、肥満へのサポートは必要なのです。
社員の健康と働きやすさを守るために、肥満が引き起こす健康リスクを理解し、予防と支援の体制づくりを進めましょう。
企業でできる肥満対策
ここでは、以下のような企業でできる肥満対策について紹介します。[2]
あなたの職場で取り組みやすいものから始めてみてください。
運動習慣をサポートする
日常生活での運動不足も、肥満につながる要因のひとつです。
企業として、従業員が自然に身体を動かせる機会をつくることで、無理のない健康づくりを後押しできます。
たとえば、以下のような取り組みが考えられます。[5]
- 朝礼後や15時など決まった時間に従業員全員でラジオ体操をする
- 仕事中に散歩休憩を取りいれる
- 企業対抗ウォーキングイベントの開催
- 通勤で徒歩や公共交通機関の利用を促す
また、以下のようなツールを活用するのも有効です。
- 健康管理アプリを活用して目標設定や記録をする
- スマートウォッチのようなウェアラブル端末を使い運動量を見える化する
- 短い運動動画を利用する(様々な自治体や保健機関が動画を公開しています)
「忙しくて運動の時間がとれない」と感じる社員も、運動を習慣化しやすくなります。
職場全体で取り組むことで、前向きに楽しく続けやすくなるでしょう。
食生活を整えやすい環境をつくる
食生活の乱れは、肥満の大きな要因のひとつです。
企業として食生活をサポートすることで、従業員が健康的な食習慣を意識しやすくなります。
たとえば、以下のような取り組みが考えられます。
- 置き型社食で食生活をサポートする
- 健康を意識した仕出し弁当を活用する
- お菓子置き場や飲み物コーナーの内容を見直す
- ヘルシーメニューや野菜中心のレシピなどを社内に掲示する
- 社員食堂でヘルシーメニューやご飯のサイズを選べるようにする
- 社内の自販機の飲み物にカロリーを表示する
活動量の少ない成人の1日の摂取カロリーの目安は以下のとおりです。[6]
- 女性:1400~2000kcal
- 男性:2200±200kcal
実際の食品に含まれるカロリーは、ご飯軽く1杯は168 kcal、ビール中ジョッキ1杯は200 kcal、野菜が入ってヘルシーに見えるミックスサンドは545 kcalほどあります。[7]
ちょっとした食事選びの積み重ねが、健康管理につながるため、職場全体で「選びやすく・気づきやすい環境」を整えることが大切なのです。
生活習慣を見直す仕組みをつくる
肥満の背景には、日常の生活習慣やストレス、体質などさまざまな要因が関わっているとされています。[1]
まずは社員が「なぜ体重が増えたのか」「どんな生活を見直せばよいのか」に気づけるよう、社内でできるサポート体制を整えましょう。
たとえば、以下のような取り組みが考えられます。[5]
- 肥満対策についての勉強会・セミナーの開催
- 減量目標の立て方や振り返りのワークシートを活用する
- 肥満の仕組みや生活習慣との関係を解説した社内資料の配布
また、必要に応じて肥満外来や専門機関の受診を案内する仕組みをつくることも有効です。
社内だけでの取り組みが難しいときは、保健師や産業医と相談しながら無理のない生活習慣を見直す方法を一緒に考えていくことも選択肢のひとつとなります。
生活習慣を急に変えるのは難しいからこそ、取り組みやすい環境やきっかけづくりが大切なのです。
健康診断後のフォローを充実させる
健康診断の結果を受けて終わりにするのではなく、その後のサポートを充実させましょう。
たとえば、BMIや腹囲、血液検査などで生活習慣病リスクが高いと判断された社員には、産業医や保健師が結果を確認したうえで面談を実施し、生活習慣の見直しを促す体制が求められます。
健康診断はあくまで「きっかけ」にすぎません。
検査結果を活用した継続的なフォローが、社員の健康意識の定着や行動の変化につながりやすくなります。
保健師や産業医など専門職と連携する
企業に保健師がいる場合は、健康診断の結果に応じた保健指導や生活習慣の相談などを通じて、社員一人ひとりに寄り添うサポートが可能です。
また、産業医と連携することで、必要に応じて肥満外来のような専門的な医療機関の受診を勧めたり、継続的なフォローにつなげたりすることもできます。
ここさぽでは、企業と連携しながら社員の健康課題に合わせた実践的なサポート体制の構築をお手伝いしています。
「社内だけでは対応が難しい」「専門的な視点を取りいれたい」といった企業様も、お気軽にご相談ください。
まとめ|肥満への配慮は信頼される職場づくりの一環
現代の肥満は、「自己管理ができていない」という個人の問題で終わるものではありません。
健康面だけでなく仕事のパフォーマンスや働きやすさにも関わる、企業として向き合う健康問題です。
社員が安心して働き続けられるように、企業ができる工夫を少しずつ取りいれていくことが大切です。
日々の食事や運動、生活習慣の見直しをサポートすることで、社員の健康意識は高まり、職場全体の活力にもつながっていくでしょう。
社員の健やかな毎日を支えることが、企業の成長にもつながります。
ここさぽの産業医は企業と社員の間に立ち、働きやすく健康的な職場環境づくりをサポートしています。
社員の健康リスクにどう向き合えばよいのか分からないときは、ぜひお気軽にご相談ください。
【参考資料】
[1] あなたの肥満、治療が必要な「肥満症」かも!?|日本肥満学会https://www.jasso.or.jp/contents/wod/index.html
[2] 日本肥満学会編「肥満症診療ガイドライン2016」ライフサイエンス出版, 2016
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/2/107_262/_pdf/-char/ja
[3] 肥満・メタボリックシンドローム予防の食事|厚生労働省
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-02-009
[4] 過体重と肥満の健康リスク|NIDDK
https://www.niddk.nih.gov/health-information/weight-management/adult-overweight-obesity/health-risks
[5] 減量のステップ|CDC
https://www.cdc.gov/healthy-weight-growth/losing-weight/?CDC_AAref_Val=https://www.cdc.gov/healthyweight/losing_weight/index.html
[6] 一日に必要なエネルギー量と摂取の目安|農林水産
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/balance/required.html
[7] 肥満が気になる方へ|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/yun/message1.html