通勤中の事故を防ぐには?マイカー通勤と薬の副作用に企業が備えるべきこと

「雪の日の通勤中に交通事故にあった」

「運転中、急に眠気に襲われて事故を起こしてしまった」

通勤中の事故は、気象条件や道路環境だけでなく薬の副作用や体調不良によっても突然起こります。

とくにマイカー通勤では、眠気や注意力の低下が命取りになりかねません。

このようなケースは「通勤災害」として労災の対象となることがあります。[1]

企業として制度を理解し、社員のプライバシーに配慮した体制を整えておくことで、万が一のときも落ち着いて対応できるでしょう。

この記事では、通勤災害について・薬の副作用によるリスク・社員のプライバシーを守りながらの対策について解説します。

通勤災害とは

通勤災害とは、通勤中に社員がケガをしたり病気になったりすることで、労災保険の補償対象となるケースを指します。[1]

ただし、認定するかどうかは労働基準監督署所長の判断によるため、すべての事故が該当するとは限りません。

通勤災害と混同されがちなのが「業務災害」です。

業務災害は、仕事中の業務が原因で起きたケガや病気が対象となります。[1]

たとえば、自宅から職場までマイカー通勤をしているときの事故は「通勤災害」。仕事中に営業先に移動しているときの事故は「業務災害」です。

企業として理解しておきたい通勤災害のポイントは以下のとおりです。[2]

  • 健康保険が使えない
  • 企業は適切に対応しなければならない
  • 原則として通勤災害は申請しなければ使えない

企業は、通勤災害の申請を希望する社員から申請書類への記入や証明を依頼されることがあります。

社員から証明を求められた際には、速やかに対応できるよう体制を整えておきましょう。

通勤災害となるポイント

通勤災害と認められるには、以下のような条件を満たす必要があります。[1]

  • 通勤中の事故であり仕事とは関係のない目的に大きく外れていないこと
  • 通勤のルートや手段が「ふつうにあり得る」「妥当」と判断されるものであること
  • 事故があった日は社員が本来出勤する予定の日である、または実際に勤務していた日であること

通勤手段は、マイカー通勤だけでなくバスや電車などの公共交通機関を利用も含まれます。

ただし、「通勤中」と認められるには、細かなルールがあり複雑なため企業内で判断することは難しいでしょう。

通勤中と認められる範囲・認められにくい範囲については、次で詳しく解説します。

通勤中と認められる範囲

厚生労働省では、以下の3つのケースを「通勤」として定めています。[1]

  • 住居と就業場所の往復
  • 就業場所から他の就業場所への移動
  • 住居と就業場所の往復に先行し、または後続する移住間の移動

引用文献: 通勤災害について|厚生労働省 東京労働局

ただし、通勤途中に一時的に通勤ルートから外れても、また元の通勤ルートに戻れば通勤として認められることがあります。

具体的には以下のような行為です。[1]

  • 通院して診察や治療を受ける
  • 通勤途中で近くのトイレを利用する
  • 出勤の途中でタバコや飲み物を買う
  • 投票や選挙に関する必要な行動をとる
  • コンビニやスーパーなどで日用品を買う
  • 職業訓練や資格取得のための学校・講座に通う
  • 継続的に家族(親・配偶者・祖父母など)の介護をしている

通勤と認められるかは、そのときの状況により異なります。

事故が発生した場合は、社員によく話を聞き状況の確認をしてください。

通勤中と認められにくい範囲

通勤中と認められにくいケースには、以下のようなことが挙げられます。

  • 仕事が終わりにジムに行こうとしての事故
  • 仕事帰りに同僚と飲みに行ったあとの事故
  • 友人と食事をするために寄り道したときの事故
  • 私的な買い物のために大きく遠回りした寄り道での事故
  • 会社が認めていないのにマイカー通勤をしたときの事故

このように、仕事や通勤と関係のない状況で発生した事故は、通勤災害と認められないことがあります。

薬の副作用による通勤中の事故リスク

通勤中の事故には、道路状況や天候だけでなく「薬の副作用」によっても引き起こされることもあります。

とくに次のような症状は、マイカー通勤や階段利用などで大きな事故につながるリスクがあるでしょう。[3]

  • 眠気
  • めまい
  • ふらつき
  • 注意、集中力の低下

このような副作用が起きる薬は、以下のとおりです。[4]

  • 睡眠薬
  • 風邪薬
  • 向精神薬
  • 認知症治療薬
  • 花粉症治療薬

向精神薬とは、精神症状の治療に使われる薬です。うつ病には抗うつ薬、双極性障害には気分安定薬、不安症には抗不安薬が処方されます。[5]

これらの薬は、眠気やふらつきなどの副作用により車の運転に注意が必要だったり禁止されていたりしています。

具体的な薬の種類は以下のサイトをご覧ください。
⾃動⾞運転に注意が必要な薬剤リスト|鳥取大学医学部附属病院薬剤部

ただし、薬の副作用には個人差があり、同じ薬でもその日の体調や服薬量によって異なります。

企業としてできる通勤災害の予防策

社員がどのような薬を服用しているのか分からない場合は、企業としても十分な安全配慮が難しくなります。

治療中の病気によっては「会社にはバレたくない」「周りの人に知られたくない」と感じる社員も少なくありません。

そのため、職場で事前に気づけずに事故が起きてしまうこともあるのです。

企業が社員のプライバシーを守りながらできる対策と、社員個人ができる対策について詳しくご紹介します。

企業ができる対策

企業の制度としての対策は、以下のとおりです。[6]

  • 任意保険への加入を徹底する
  • マイカー通勤は原則禁止にして許可制にする
  • マイカー通勤者に対し交通安全教育を実施する
  • 無免許や無保険にならないように定期的に確認する

社員への安全配慮義務には、通勤の負担への配慮も含まれます。[6]

たとえば、マイカー通勤を原則禁止にして許可制にすることで、心身の不調がある社員がもし事故を起こしても「会社は基本的にマイカー通勤を禁止にしています」と言えるでしょう。

また、社員への任意保険の加入の確認や交通安全教育の実施なども、安全配慮義務にあたります。

職場で正しく配慮を行い、通勤災害を未然に防ぎましょう。

日常的な対策は、以下のとおりです。

  • 適切な労働時間の管理をする
  • 業務前に体調に変わりがないかを軽く確認する
  • 時間に余裕のある行動ができるようなスケジュールを意識する
  • 大雨や台風などのときは、無理に出勤せずテレワークや運転の見合わせを柔軟に検討する
  • 職場にポスターやひとことメッセージを掲示して「安全」をさりげなく意識できるようにする

繁忙期でも適切な労働時間の管理を行うことで、社員は睡眠時間を確保できるでしょう。

このように、状況に応じて企業でさまざまな予防策を行い、社員が安全に通勤できる環境を整えることが大切です。

服薬中の社員には、以下のような対応を心がけてください。

  • 産業医に相談する
  • プライバシーを守ることを約束する
  • 通院中の主治医や薬の添付文書を確認する
  • 「何の薬を飲んでいますか?」と直接聞かない
  • 勤務を続けることが大切なのではなく安全に働けることが大切だと伝える

薬の内容や治療中の病気によってはデリケートな問題です。

たとえば、家庭内の問題で精神薬を服用し眠気が出ていたり、ストレスで眠れなくなり睡眠薬を服用していたりする場合もあります。

そのため、服薬内容を直接尋ねることは避け、安心して話せる環境を整えましょう。

まずは「夜しっかりと眠れていますか?」「最近、元気ないようですが、悩みがあったら話を聞きますよ」など、ひとりで抱え込んでいないか尋ねてくださいね。

個人ができる対策

企業が支えるだけでなく、社員一人ひとりが通勤中の安全を意識することも大切です。 [7][8]

  • 天気予報を確認し早めの行動をする
  • 危険な場所では小さな歩幅で歩行する
  • 厚底靴やハイヒールなど履く靴は避ける
  • 食事や睡眠をしっかりとり体調を整える
  • スマホの操作やイヤホンの使用など「ながら通勤」は避ける
  • 転ばない体づくりのためにストレッチや軽い体操を習慣にする

企業はこれらの対策を社員まかせにするのではなく、個人対策を促すために社内掲示物などで安全意識を喚起しましょう。

職場が社員の安全に配慮してくれていると分かると、社員も安心して働きやすくなります。

まとめ|社員の安全を守り信頼される職場づくりをしよう

通勤災害は、社員の健康や命に関わるだけでなく、企業の信頼にも関わる問題です。

とくにマイカー通勤や薬の副作用が関係する事故は、企業としても気づきにくく対応が難しいことがあります。

そのため、企業は制度や日常的な配慮を行い、社員が安心して通勤できる環境をつくることが大切です。

社員一人ひとりの対策も支えながら、今できる対策を行い信頼される企業を目指しましょう。

【参考文献】
[1] 通勤災害について|厚生労働省 東京労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/rousai_hoken/tuukin.html

[2] 労災保険給付の概要|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署p12・14
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001332996.pdf

[3] 自動車運転に注意を要する薬|名古屋大学大学院医学研究科 医療薬学・医学部付属病院薬剤部
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/pharmacy/patient/drive.html

[4] 服薬中の精神疾患 患者の運転支援p2|日本学術会議
https://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/190916-3.pdf

[5] 向精神薬|こころの耳 厚生労働省
https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1554

[6] 通勤・通勤手当を巡る法的諸問題|天野 晋介
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/09/pdf/069-078.pdf

[7] 交通事故を防ぐには?会社が実施すべき事故を起こさないための対策|JAF

[8] 厚底靴等での運転・ミニバイク等のナンバーナシ、折り曲げは違反です。|秋田県警
https://www.police.pref.akita.lg.jp/kenkei/news/p1364

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